近年の燃料費高騰に伴い、多くの企業がエネルギー効率の向上と、コスト削減に注力しています。そんな中、AIスマート空調は光熱費の大幅削減やカーボンニュートラルの達成を支援する注目のシステムです。本記事では、AIスマート空調の基本的な仕組みや、導入までのステップについて詳しく解説します。また、神戸大学によるAIスマート空調の実証実験のデータをもとに、低炭素化への貢献度についても紹介します。AIスマート空調について、興味がありましたらぜひ最後までご覧ください。AIスマート空調とはAIスマート空調とは、人工知能(AI)の技術を活用して、室内環境を快適に保つ空調システムです。その仕組みとしては、まず空調に搭載されたIoTセンサーを使用して、温度や湿度、人流などをリアルタイムでデータ化します。その収集したデータをもとに、AIが最適な室温を維持するための指示を空調機に出すというものです。仕組みについては次章で詳しく解説します。AIスマート空調を導入すると、光熱費や人件費、CO2排出量の削減といった効果が期待できます。ビル運営や管理を行う企業にとっては、持続可能な経営を実現する一助となるでしょう。AIスマート空調の仕組みAIスマート空調は、高度なIoTセンサーとAI技術によって構築されています。その仕組みは以下の通りです。まず、室内に設置されたIoTセンサーが人の動き、温度、湿度などのデータを収集します。このデータはインターネット経由でサーバーに送信され、AIによって解析されます。AIは、過去のデータや現在の気象状況などから、未来の室内環境を予測することが可能です。予測された室温が人々にとって快適にならない場合、AIが空調の稼働時間や温度、湿度などをコントロールし、最適化を目指します。たとえば、毎日特定の時間に混雑するエリアがあるとします。人が集まる時間帯には、そのエリアの温度や湿度は上がるでしょう。そのことを予測しながら空調の調整をしないと、その時間帯だけその空間が異常に暑くなる可能性があります。AIスマート空調を活用すると、事前に特定の時間帯に温度が上がることがわかるため、そのときだけ冷房を強められます。その結果、快適な室温の維持が可能です。この先回りの制御により、急激な温度変化を防ぎ、人々の快適性を高めます。また、その付加価値として消費エネルギーの抑制につなげられます。AIスマート空調の導入による効果AIスマート空調の導入により、光熱費やCO2排出量の削減などの効果が期待できます。ここでは、神戸大学の長廣剛(ながひろつよし)特命教授が行った実証実験を参考に、AIスマート空調の導入効果について詳しく解説します。神戸「さんちか」の空調電力量を50%削減神戸大学のカーボンニュートラル推進本部、長廣剛特命教授は神戸市内でAIスマート空調の実験を実施しました。この実験の目的は、低炭素化を目指した空調の運用方法を検討することです。ここでは長廣剛特命教授が行った神戸の地下街「さんちか」の実験を紹介します。神戸の地下街「さんちか」の実験では、2018年から段階的にAIスマート空調の導入に取り組みました。2018年は運転データを手動制御で構築し、2019年には前年のデータをもとに運用を行いました。その結果、AIスマート空調を取り入れていない時期を基準として、地下街の南北通路は2018年には42%、2019年には46%、2020年には61%の電力量の削減に成功しました。また、2020年には地下街全体で、2018年比で50%の電力量を抑制しました。出典:世界初!デジタルテクノロジーを活用した空調制御技術「AI スマート空調」AIによる空調制御により、地下街全体の空調電力量を抑えたことで、省エネが達成されたのです。関西国際空港で空調の使い方を最適化長廣剛特命教授は、関西国際空港でもAIスマート空調の実験を実施しました。この実験は温度の変化を見える化して、利用者に温かい場所や涼しい場所を選んでもらうというものです。ここで着目したのが「ペリメーター」です。ペリメーターとは、外気や日光の影響を受けやすく、温度が変化しやすい壁際のエリアを指します。この部分の温度を見える化すると、利用者は自ら快適な場所を選ぶことができます。わざわざ空調を使って、温度を調節する必要がありません。その結果、無駄な消費エネルギーを抑えられ、省エネにつながります。冷蔵陳列代の冷気を活用して消費エネルギーを76%削減スーパーマーケットの実験では、冷蔵陳列台の冷気を活用して、消費エネルギーを76%削減しました。実験を行うまでのスーパーマーケットは、冷蔵陳列台から8℃の冷気を出して商品を冷やしているのに対して、店内の空調を15℃に設定している状況でした。つまり、空調で冷蔵陳列台を温めていたことになります。そこで、長廣剛特命教授は、冷気が下に行き暖気が上に行く性質を利用し、店内の空調をほとんど使用しない状況を実現しました。そのやり方は、下に移動した冷気を吸い上げて店内に循環させるというものです。冷房陳列代の冷気を部屋全体に回すことで、空調の消費エネルギーを76%削減させました。関連記事:神戸大学のAIによる空調制御の実証研究とは?消費エネルギー削減に効果大AIスマート空調を導入する流れ3ステップ企業やビルオーナーがAIスマート空調を導入するためにはどうしたらよいのでしょうか。AIスマート空調を導入するまでは、3ステップあります。使用状況の把握とデータの活用方針策定システム設計と空調機のデバイス設置テスト運用から運用開始へこの3つのステップを踏むと、所有するビルにAIスマート空調を導入することにつながります。それぞれ順番にご覧ください。1.使用状況の把握とデータの活用方針策定AIスマート空調を導入する最初のステップは、空調の使用状況の把握です。状況を把握して、エネルギーの消費パターンや現在の課題を洗い出します。まず全体の消費量を把握します。既存の空調機がコンピューター制御されている場合は、多く使用されている時間や、使用されていない時間を日ごとにチェックしましょう。次に収集した人流や気温、湿度、気流などのデータの活用方針を策定します。現在の空調システムの使用状況を加味して、導入施設に合った方針を策定する必要があります。2.システム設計と空調機のデバイス設置次に、運用に使うシステムを設計し、AIやIoTセンサーを設置します。システム設計は導入する施設によって変える必要があります。たとえば、関西国際空港では、温度の変化が起きやすい「ペリメーター」というエリアの温度を見える化することで、人の行動変容を促すシステムが導入されています。また、スーパーマーケットでは冷蔵陳列台の冷気を活用して、店舗全体の消費エネルギーを抑えるシステムが運用されています。上記のように導入する店舗やビルに合わせて空調システムを設計することで、消費エネルギーを最適化できます。システムが組み上がったら、空調機にデバイスを設置しましょう。デバイスには人流を測定する人感センサーや、気流の流れを把握するセンサーなどがあります。また、センサーからサーバーにデータを送るためのインターネット環境も構築します。3.テスト運用から運用開始へセンサーを設置したあとはテスト運用をします。テスト運用では、正しくデータを収集できるかをチェックします。これは数回にわたって確認する必要があり、時間を要するものです。部屋の大きさや室温、室内にいる人数は最適かを確認して、正しいデータを収集します。データに問題がないことを確認したら、実際にAIスマート空調の運用を開始します。最初はデータが溜まっていないため、最大限の活用はできません。しかし、収集するデータの量が増えると、その分だけAIの精度も向上するでしょう。AIスマート空調に関するよくある質問AIスマート空調について、よくある質問をまとめました。AIスマート空調の導入によって、自社のビル運営の課題解決にどのように役立つかをチェックしましょう。導入できる建物に制限はある?カーボンニュートラルに貢献できる?それぞれ解説します。導入できる建物に制限はある?AIスマート空調は、オフィスビルや工場、地下街、病院、百貨店など多様な建物に導入できます。基本的には、既存の空調に連携させられるため、導入に当たって大きな制限はありません。ただし、既存の空調の状態によっては、導入の難易度が上がる場合があります。たとえば、古い空調システムや特殊な設計の建物では、追加の工事が必要になることもあります。導入にあたっては、事前に専門家による調査と適切な計画を行うことが重要です。カーボンニュートラルに貢献できる?AIスマート空調は、カーボンニュートラルに貢献します。AIによる解析とIoTセンサーを用いたデータ収集を行うと、エネルギー効率を最大化でき、低炭素化を実現できます。実際、神戸大学の実験では、多くの施設で低炭素化が達成されており、カーボンニュートラルに近づいています。AIスマート空調は、持続可能なビジネス運営を推進し、カーボンニュートラルにも貢献するシステムです。AIスマート空調でビル管理が変わる|まとめ本記事では、AIスマート空調について仕組みや具体的な導入例を紹介しました。AIスマート空調は、先進的なAI技術とIoTセンサーを活用し、最適な空調管理を実現するシステムです。快適な室内環境を維持しながら、光熱費の削減やCO2削減によるカーボンニュートラルへの貢献が期待できます。株式会社メンテルでは、最先端の空調システムのソフトウェアを提供しています。ビル運営における、エネルギーの効率化やコスト削減の実現が可能です。詳しくは株式会社メンテルのサービスをホームページでご確認ください。関連記事AIを活用した空調制御とは?実現する快適性とエネルギー効率を解説